定年後の働き方と工夫~働くと年金がカットされる「28万円の壁」
目次
年金のカットとは(在職老齢年金の制度)
ひと昔前までは
60歳で定年退職し、60歳以降は年金生活
という図式でしたが、
現在は60歳を過ぎても働き続ける人が急増しています。
昭和24年4月生まれ以降の方(男性)は
年金の満額受給開始年齢が65歳から
となったことが大きな要因で、
また定年年齢の引き上げや継続雇用制度などの措置もあり
60歳になってからも働きやすくなっていることも影響しているようようです。
しかし、60歳で定年退職後も働く場合、
働き方によってはせっかくもらえる
老齢厚生年金が減額される
ことはご存知ですか?
60歳以降でも、会社勤めをする人は原則として
厚生年金に加入しなくてはなりません。
厚生年金の被保険者が老齢厚生年金をもらう場合は、
給与の額と年金の額に応じて
年金の一部又は全部が支給停止されることがあります。
これが在職老齢年金と呼ばれる制度で、
65歳未満と65歳以上ではカットされる基準の金額が違いますが、
大事な年金がカットされてしまいます
月額28万円の壁
在職老齢年金では、
年金月額(老齢厚生年金の基本月額)と、
給与月額*1が基準になります。
*1)総報酬月額相当額と呼ばれる、給与の月額に年間(毎年5月から翌年4月までの1年間)のボーナスの12分の1の金額を足した合計額。
<年金カットの基準>
平成27年4月時点の基本的な基準の概要。※年度毎に見直しあり
①60歳以上65歳未満の方
- 年金月額と給与月額を足した合計額が「28万円以下」であれば年金はカットされません。
- 年金月額が「28万円以下」で、給与月額が「47万円以下」なら、2つの合計額で28万円を超えた部分の50%が支給停止となります。
②65歳以上70歳未満の方
- 年金月額と給与月額の合計額が「47万円以下」であれば年金はカットされません。
- 年金月額と給与月額の合計額が47万円を超える場合は、47万円を超えた部分の50%が支給カットとなります。
③70歳以上の方
- 新規に厚生年金への加入は出来ませんが年金カットの基準は②の65歳以上の方と同じです。
このような言い方をすると会社勤めで働くことが不利のように思えますが、
多少年金が減っても厚生年金に加入して働き続けるメリットもあります。
<メリット>
- 60歳以降も厚生年金に加入するので65歳から受取れる老齢厚生年金額が増える。
- 年下の妻がいれば、妻の分の国民年金保険料の支払いがいらない。
(第3号被保険者のままでいられる) - 会社の健康保険に加入できる(国民健康保険は収入に応じて保険料が決まるが、一般的に健康保険より保険料率が高い)。健康保険組合によっては傷病手当金や人間ドックの費用援助等が受けられる。
年金がカットされるからと働かないよりは、
カットされても働いて収入があるほうが生活は安定しますので、
働き方と年金のバランスをトータルで考えることが大事です。
働き方の工夫(年金カットされない働き方)
そこで、働きながら年金もカットされないようにする方法がないものか考えてみました。
奨励するわけではありませんが、60歳を過ぎても働こうとお考えの方は参考にしてください。
じつは、年金の支給カットは老齢厚生年金だけを対象としており
(退職金を年金で受け取る企業年金は対象外でカットされることはありません)
厚生年金加入者にだけ適用される制度で、60歳以降仕事をしても自営業で仕事をする場合やパート/アルバイト等で厚生年金に加入せずに働く場合には適用されません。
したがって、仕事の仕方や勤務形態を考えて「厚生年金に加入しないで働く」方法を選択すれば年金はカットされません。
但し、会社は必ず厚生年金に加入を義務付けられていますから、本人の都合で勝手に加入を辞退することは出来ません。
一定の加入条件を満たしていない場合にのみ非加入が認められます。
<厚生年金への非加入が認められる条件>
一週間の労働時間(休憩時間を除く)が一定の時間未満であること
一定の時間とは、その会社の一週間の労働時間の4分の3
労働基準法では一週間の労働時間の上限は40時間ですから
一般論として、一定の時間は40時間×4分の3=32時間未満となります
<平成28年10月以降の条件>
法改正により平成28年10月から「パート労働者に対する社会保険の適用拡大」がスタートします。
これにより、パートやアルバイト労働者も、下記の条件を全て満たす方は、厚生年金への加入が義務化されますので注意が必要です。
- 勤務時間:週20時間以上
- 月額賃金:8.8万円以上 年収:106万円以上
- 雇用期間:1年以上
- 従業員501人以上の企業に勤務
勤務を始める前に、勤務予定先に厚生年金非加入での勤務が可能かどうか相談し、一週間の勤務時間を決めることが必要です。
又、現時点では給料の金額は考慮されませんので、この点も含めて交渉が可能であれば、非加入での勤務の選択肢が増えることになります。
尚、加入条件について、現在は上記の内容ですが法律が改定されると条件も変わります。
実際の年金カットは個人毎の受給内容を考慮して判定されることになりますので、働くことになった時点で詳しくその会社に相談をされることをおすすめします。
在職老齢年金の仕組み…平成27年4月現在
参考①:60歳以上65歳未満の方の在職老齢年金の計算方法
基本月額と総報酬月額相当額 | 計算方法 (在職老齢年金制度による調整後の年金支給月額) |
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基本月額と総報酬月額相当額の 合計額が28万円以下 の場合 | 全額支給 |
総報酬月額相当額が47万円以下で 基本月額が 28万円以下の場合 | 基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2 |
総報酬月額相当額が47万円以下で 基本月額が 28万円超の場合 | 基本月額-総報酬月額相当額÷2 |
総報酬月額相当額が47万円超で 基本月額が 28万円以下の場合 | 基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)÷2 +(総報酬月額相当額-47万円)} |
総報酬月額相当額が47万円超で 基本月額が 28万円超の場合 | 基本月額-{47万円÷2 +(総報酬月額相当額-47万円)} |
参考②:65歳以上の方の在職老齢年金の計算方法
基本月額と総報酬月額相当額 | 計算方法 (在職老齢年金制度による調整後の年金支給月額) |
---|---|
基本月額と総報酬月額相当額との 合計額が 47万円以下の場合 | 全額支給 |
基本月額と総報酬月額相当額との 合計額が 47万円を超える場合 | 基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2 |